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広島高等裁判所 昭和49年(ラ)23号 決定 1974年11月08日

抗告人

東光諄

右代理人

飯田信一

相手方

合資会社千田工作所

右代理人

星野民雄

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告申立の趣旨と理由は、別紙抗告理由書記載のとおりである。

本件記録(広島地方裁判所昭和三八年(ケ)第五九号事件記録を含む。)によると、抗告人が寺西悦二に対し有する代金債権の担保のため、同人の所有にかかるものとして、原決定摘示のとおり、原決定別表記載の不動産(以下本件不動産という。)に対し抵当権を設定したうえ、当該抵当権設定仮登記を経由したこと、抗告人は右抵当権に基づき本件不動産につき任意競売の申立をなし、不動産競売手続を実施中であること、しかしながら、右抵当権設定以前に相手方と寺西悦二との間に処分禁止の仮処分が発令、執行されており、その後右の本案訴訟において寺西悦二は相手方に対し本件不動産の所有権移転登記手続をなすべき旨の判決が確定し、右確定判決に基づき相手方に所有権移転登記がなされていることが明らかである。

ところで、処分禁止の仮処分の仮処分債権者は、その本案訴訟において勝訴した場合直ちに当該仮処分に違反する処分の効力を否定することができるものと解すべきである。けだし、もし当該仮処分に違反する処分に関与した第三者において、仮処分債権者が本案訴訟においてせつかく勝訴した場合においてもなお右本案訴訟における判決の当否を争い、右処分の効力を維持し得るものとすれば、将来の執行を保全するために設けられた仮処分制度の存在は殆ど無意味に帰することとなるからである。

相手方と東光四六との間における訴訟において、東光四六は相手方に対し二九万八、二七八円の支払と引換えに本件不動産の所有権移転登記手続をなすべき旨の判決が昭和三五年八月三〇日確定しているにもかかわらず、相手方は、東光四六に対し右金員を支払つていないから、本件不動産の所有権を取得していないとの所論は、結局、前記認定の相手方と寺西悦二との間になされた処分禁止の仮処分に違反する処分により抵当権者となつた抗告人が、相手方の本件不動産に関する所有権を否定して前記本案訴訟における相手方勝訴の判決の当否を争うものというべきであるから、前説示の理由により採用することができない。

なお、本件不動産を、抗告人が昭和二九年一二月七日東光四六から、寺西悦二が昭和三五年九月二九日抗告人から順次譲受けた各時点において、いずれも相手方は所有権移転登記を経由していないから当該所有権を抗告人に対抗し得ないとの所論は、その趣旨が必ずしも明確でないが、相手方と寺西悦二との間の前記本案訴訟における相手方勝訴の判決の当否を争うものというのであれば、その理由のないことは既に説明したとおりであり、また、本件抵当権設定当時相手方は所有権移転登記を経由していないから抵当権者たる抗告人に対してその所有権を対抗し得ないものというのであれば、本件の場合抗告人が前記処分禁止の仮処分の効力をうける立場にあることを忘れた議論であつて失当というほかない。いずれにしても所論は採用することができない。

その他原決定にはこれを取消すべき違法な点は認められないから、本件抗告は理由がない。

よつて、抗告費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり決定する。

(宮田信夫 高山健三 武波保男)

〔別紙〕抗告理由書

債権者右抗告人東光諄、債務者件外寺西悦二間の広島地方裁判所昭和三八年(ケ)第五九号不動産任意競売開始決定に対し(相手方)千田工作所は同庁昭和四九年(ヲ)第四〇三号を以て抗告人を相手方として異議の申立をなし昭和三八年四月二三日の別紙目録記載の不動産(原決定別紙表示の不動産をいう以下同じ)に対する競売開始決定を取消し右競売申立を却下する旨決定がなされ送達されましたが不服なので抗告期間内に即時抗告に及び原決定を取消し競売の続行を求める次第です。

抗告理由

一、別紙目録記載の不動産は元東光四六の所有に係り戦時中軍の強制に依りその一部を毛利工業株式会社に貸与して居た処、終戦後合資会社千田工作所が本件不動産を買受けたと称し不動産を占居使用して居るので広島地方裁判所昭和二三年(ワ)第五七号を以て宅地、建物明渡請求事件を提起し、千田工作所が東光四六に対し二九八、二七八円を支払うのと引換に所有移転登記すべき旨の判決があり、之は昭和三五年八月三〇日確定(最高裁)したのであるが、千田工作所は未だに之を支払はないので本件不動産は千田工作所所有でない(尚右金円は本件不動産の代替地提供を千田工作所が申出て昭和二九年十一月一審判決当時の代価を基準としたものである)。

二、抗告人が昭和二九年一二月七日本件不動産を右四六から譲り受けた時並に抗告人が之を田中易延を介し寺西悦二に売却した昭和三五年九月二九日の時点に於ても千田工作所の所有権取得登記はなされて居らず、本件不動産に対する所有権者を以て抗告人に対抗し得ない。

従つて右所有権取得を前提としてなした前記異議申立は却下さるべきである。

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